緊張しないスピーチの方法
●講演など、人前でお話をされるときに緊張した経験はありますか?またそのエピソードを教えてください。
そもそも小学生のころなどは人前で話すことは全くだめで、授業中に手を挙げて回答することすら苦手で、いかに当てられないようにするかを考えているような子でした。
ただ、それではダメだと、自分なりの方法で克服していこうと思ったのです。例えば放送部に入って校内放送で話しかけることからはじめました。これならば、全校の何百人にも話しかけていますが、顔を見るわけではないし、暗記する必要もなく原稿を読めば良いですからね。そこから「話す」ということに慣れていき、それが人前でも大丈夫なきっかけとなりました。緊張するの要因は「失敗したらどうしよう」という不安感だと思いますので、慣れていくことで大分緩和されたのだと感じています。
一方で、「背伸びをして語ろう」とすると緊張をしますね。例えば自分自身よりも人生経験が豊富な社長・経営陣の方々の100人ぐらいの会合で話すとき、「経営者と同じレベルで話さなければ」と思ってしまい、緊張してしまうことがありました。背伸びして話をすると必ず無理や話に矛盾が出てくるので、それを埋めるために「失敗したらどうしよう」の要因を自分の中に作ってしまって、緊張してしまうのです。
そもそも、本当に社長・経営者の経験談を期待して講演会が開催されているのであれば、それに相応しい他の方が選ばれて登壇することでしょう。にもかかわらず、その場にお招きいただくということは、期待されていることが「等身大の自分のことを話すこと」なわけです。期待されていることは何なのか、それを気が付くことによっていつも通りの、いつもの自分の話をすることができるでしょう。
●人前でお話をされるうえで、心がけていることは何ですか
慣れるまでは、「事前に失敗すること」慣れてからは、「相手視点で講演内容を考えること」
●どうしてそのポイントを心がけることになったのか、エピソードも含め教えてください
◇慣れるまでは、「事前に失敗すること」
講演内容の準備とともに、話し方の練習もしておく必要があるでしょう。緊張しにくくするためにも練習が重要だと考えています。ただし、練習といっても、間違いないように何度も話すのも良いですが、私の場合はその逆を行っています。つまり、準備段階は「あえて失敗する」ようにしておくことです。
そもそもなぜ緊張するのかを考えると、「失敗してしまうことが心配だから」というのが一番の原因だと感じました。だから、練習段階で失敗する経験をしておけばよいと考えたのです。
例えば、「講演の途中で、話したいことを1章分忘れてしまったと想定したらどう話をつなぐか」、「プレゼンテーション資料で、間違ってライバル企業の成功例を載せてしまっていたとしたらどう話をつなぐか」、「パソコンがトラブルになったときに、話をつなぎながら再起動するにはどうしたらよいか」など。
失敗しないように練習していると、本番で少しのトラブルが起きても慌てて緊張してしまうかもしれません。一方で、必ず失敗するという前提でトラブルを経験していれば、本番で何が起きても大抵のことでは動じないことでしょう。
実際に講演中にプロジェクタートラブルで投影がうまくいかなくなったことがあり、トークでつなぎながらパソコンを再起動することもありました。さらに、講演会場に到着する直前にズボンが破けてしまったこともあります。本来だと大問題ですが、近くにあったデパートの紳士服売場に行って同系色のスラックスを購入し、ホチキスで裾の長さを仮止めしてもらったなんていうこともありましたが、逆にそれらも講演のトークに取り入れて、笑えるぐらいの余裕が持てるようになっています。
◇慣れてからは、「相手視点で講演内容を考えること」
初めて講演をしたときに、こんなに面白い話はないだろうと準備をしてお話をしていきました。
確かに聞いてくれているのですが、何か反応の中で違和感を感じたのです。私は主催者の許可があれば講演をビデオに撮影して、どう話していたかを復習するようにしています。聴講者の特定の人の気分になって客観的に見直してみると、その違和感が分かりました。どんなに素晴らしい業務経験談だったとしても、規模が10分の1で同じことを行っている会社の人からずれば「それって予算があったからだろう」「人が多くて羨ましい」と感じられて、単なる自慢話で終わってしまったのではないかということです。
あらためて考えると「講演」は、聴講者の方にとって2つの時間を持っていると思います。「聴く時間」、そして「行動する時間」です。「聴く時間」だけを考えれば、どんな話をしても構わないでしょう。しかし、講演を依頼される方の立場に立って考えると、単に「話を聴きたいから」ではなく、「話を聴いて、社員(生徒・参加者)の行動に変化を促したいから」ということです。職種や役職などによって行動は異なりますので、聴く内容もその方々ごとに良いものにすべきだと考えています。
それが聴講者の方にとって良いものだったかどうかを判断する一つの基準が「聴講者がそれを誰かに話せるか」ということだと思います。たとえば、スマートフォンの普及率について語りたいときに、どこかの白書や調査資料からのグラフを添付して「現代はスマホの時代です」と語ったとします。講演者が話の信頼性を高めるためにその添付をするわけですが、講演の後に覚えている人は多くないでしょう。一方で、「会場の方でスマートフォンを持っている人は上にあげてください」とすると、9割以上の方がスマホをかざすのをお互いに見ることができます。「9割以上ですね、これは日本の縮図です」と話したとすると、聴講者の皆さんは「やっぱり、スマホの時代だな」と直感することができ、視覚的に体験として体得することができます。この違いによって聴講者は、自分自身の経験談として「今はスマホの時代だ」と語ることができるようになるでしょう。
さて、2つの準備に関するお話をしてきましたが、慣れるまでは自分の準備時間をして「聴く時間」を素晴らしくすること。慣れてからは相手の準備時間に費やすことで「行動する時間」を加味した膨らみを持つこと。それが講演に慣れていく過程で重要だと思っています。
●人前でのお話に慣れていない方に向けて一言お願いします!
集まっている中の1人だけ、「心の友」を見つけましょう。どんな場合でも最低1人は笑顔でいたり、熱心な人がいるはずです。その人と全く面識がなくても、勝手に「心の友」と思ってみましょう。誰がどう思おうと、その「心の友」には話が必ず伝わっている、と思えることで自信が持てることでしょう。その自信は結果として、聴講者全員に波及するはずです。そして話しているうちに気が付くはずです、心の友は案外たくさん見つかるものだと。
「うまい話を聴きたい」の前に、「あなたの話を聴きたい」と思っていること、それを忘れないでください。