新しい本の文化

Category: ブレストのタネ
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携帯では、携帯小説や、コミックが流行るなど、新しい本の文化が作られつつある。

その中、新しい試みを行っている「本」がある。

オーディオビジュアルノベルというジャンルだ。

それを考えた中には読ませるための工夫がたくさんあるようだ。

プロジェクトに携わった方の記事を紹介したい。

日経トレンディー記事より

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ここ数年、女性をターゲットにしたデジタルエンタテインメントが注目されている。

 例えば携帯電話アプリの「恋愛ゲーム」は2008年に一気に市場を拡大させた。NTTドコモの場合、07年8月には23しかなかったサイト数が08年12月には3倍近い64サイトまで増え、登録者数も30万人も超えた。ネットに目を移せば、リンクシンクが08年9月にスタートさせた女性向け2次元恋愛シミュレーションSNSサイト『ウェブカレ』は5日間で会員数1万人を突破した。

 これまでデジタルエンタテインメントを楽しんでいるのは男性が中心で、女性ファンは「腐女子」と揶揄(やゆ)されることが多かったが、今では「フツーの女子」が楽しむようになってきているのだ。

 女性向けデジタルエンタテインメントの特徴は、短時間で簡単に楽しめること。小さなイベントを疑似体験する、という感覚に近い。

 そんな状況の中、あえて小説のように「物語をじっくり読ませる」ことに挑戦しようとしている女性向けデジタルコンテンツが現れた。「オーディオビジュアルノベル」と銘打たれた『ライフウィズアイドル』だ。

 この時代になぜ「物語」にこだわるのか。制作者に話を聞いた。

画像データや音声データを加え小説をマルチメディア化する

 『ライフウィズアイドル』は芸能界を舞台にした物語だ。

 スタートしたばかりの芸能プロダクション「イズミプロ」に、アイドル志望の男子高校生がやってきて、芸能活動がスタートする。主人公たちはレッスンやオーディションを受けながら、成功を目指す──。

 このストーリーを読者はWindowsパソコンで楽しむことになる。

 パソコンにDVDを入れ、指示に従ってインストール。そして、プログラムを起動させる。スクリーンには文字とイラストが表示され、BGMが流れる。ユーザーがエンターキー(マウスの左クリックでも可)を押すたびに、一つの文章あるいは段落が次々と表示される。途中、登場人物のセリフになると、声優がその言葉を読み上げる(地の文は読み上げられない)。アイドルを目指すという設定なので、もちろん楽曲も流れる。

 一見すると、ゲームにも見えるのだが、これを制作したオフィスエランの鈴木直大氏は「これは小説です」と断言する。

 「前提に小説があって、それに音楽や、セリフのボイスデータ、凝ったBGMといったデータを付加してマルチメディア化した小説です」

 オフィスエランは、2006年に設立された企画製作会社。東映アニメーション『ゲゲゲの鬼太郎』のプロモーション用コンテンツ企画制作から業務を開始し、コンテンツとマーケティングを中心に企画業務を行っている。

 鈴木氏によれば、これは「ライトノベル」と同じアプローチだという。「アニメ的な表現を、積極的に取り入れた小説がライトノベルだとしたら、その進化形は必ず音が出るはず。それをいち早くやっておきたかった」。

 マルチメディア化したのは、小説を読まない層にも「物語」を楽しんでもらいたかったから。小説は読まないが、声優のファン、イラストのファン、アイドルが好きな人、そういった人にも「物語」の楽しさを味わってほしい、というわけだ。

 女性をターゲットにしたのは、「男性より女性のほうがデジタルでフィクションを楽しむ素地があるのではないかと考えた」からだという。「女性に比べると男性は“コンサバな印象”があるんですよ。エロティックさか、バイオレンスがないと目を向けてもらえない、そんな印象があります。でも、それは『物語を読ませる』という本道から外れると思ったのです」。

 狙いはあくまでも「物語」の復権なのだ。

読者を結末まで連れて行くためのサポート

 実際に『ライフウィズアイドル』を“読んで”みて感じるのは、「読者に先を読ませる」ための「配慮」だ。

 鈴木氏によれば、この作品の文字数は17万字。「これは文庫本2冊分に相当する」という。本を読み慣れていない人にとって、読み通すのはなかなか苦労する分量だろう。

 だが実際に読み始めると、ただ活字を追うだけではない、“背中を押されるような”感覚を体験する。印象的なBGMが流れ次の展開を期待させ、登場人物のセリフを声優が感情豊かに読み上げる。主人公が歌う楽曲もきちんと聴くことができる。これまで「想像力」で補わなければいけなかった部分を、データが「補足」してくれるのだ。結果として、ストーリーを読み進めていける。

 もちろん、登場人物の容姿や声、流れる音楽も含めて、すべてを読者が自由に想像できることが、小説のおもしろさではある。だが『ライフウィズアイドル』がターゲットとしているのは、そういう楽しみ方をまだ知らない読者たち。「数秒に1回、音楽とかボイスでのアシストを入れることで、最後まで読み切らせることを狙った」(鈴木氏)。

 実際、読者から寄せられた感想をみると、今までに小説を読んでいなかった女性からのものが多い。

「声がついているから感情がよくわかりました」

「本を最後まで読めたことはなかったけれど、これは結末まで読むことができました」

 平均年齢は20代前半から中盤が中心だという。

物語が想像力をはぐくむ

 なぜ小説を読んだことのない層に物語を読ませたいのか。

「今、これだけたくさんの文字をケータイで読む時代ですから、『文字離れ』はしていないと思います。でも『物語離れ』はすごく深刻だと思うんです」

 想像力や思いやりという感情は、目の前でイベントが繰り返されるだけのコンテンツでは培われないのではないかと鈴木氏は考える。「物語の中で、誰かの気持ちになってみる、何かの目にあった人の気持ちになってみる。物語を読むことで想像力が培われるんだと思います」

 紙に文字を印刷して読者に提供するエンタテインメントである小説は、長い間、その形を変えてこなかった。とはいえ、これだけ娯楽があふれる今、より幅広い新規ユーザーを獲得するには、その形式を進化させる必要がある。

 ケータイで文字を読むことに抵抗がなくなった今こそ、その読者を「物語」へ連れて行く絶好のチャンスでもある。その場合の敷居は低ければ低いほどいい。その一つのチャレンジが『ライフウィズアイドル』なのかもしれない。

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