山手線渋谷駅、午前9時35分。あわただしくすぎゆく人々。
内回りホームへと続く階段の手前でそれは起きた。
目の前にいた20歳前後の若い男性。赤いシャツ、大学生か?
その前に、ビシっとしたグレーのスーツを着た(クールビズとは無縁そうな)サラリーマン風の50歳前後の男性が立ち止まった。
そのスーツ姿の男がふりかえると、じぶんの内ポケットに手を差し込み、何かをとりだした。
「ちょっとすいません」
そういうと周囲に悟られないように、腰の高さでさきほど取り出したものを若い男性に見せた。
…こ、これは
ドラマでしかお目にかかれない、本物を見るのは初めてな金色に光る桜の御紋…『警察手帳』。
「○○さんですか?」
「いえ、ちがいます」
「ちょっとよろしいですか…」
…ここから先2人で進んでいくのだが、何があったかは定かではない。
ドラマや映画のような派手さはなく、現実ってこういうものなのだと思った瞬間であった。