通勤電車。
混み合う車内。
そこは、ブロイラーの養鶏場で一羽あたりに与えられたスペース。
そんな中での一つの自由、顔の向き。
無言で顔のベクトルを互いに全く合わせないように頑張っている人々。
虚しき関数。
そこに入ってきた、
ひとりの自由人。
皮ジャン、
鎖、
逆立つ、いや殺気立つ金髪。
静寂な車内を破壊せんとばかりの空気に、
緊寂が深まる。
そこに彼がおもむろに
その空気をつんざくスイッチを押した、
i POD。
大きめのヘッドホンをかける。
自己陶酔のための最大ボリューム。
けだるい表情を浮かべ、
曲に聞き入りはじめた。
よだんだ満員電車の車内に漏れ鳴り響くサウンド、
広まる他の静寂・・
高まるピアノの音色・・
ピ、ピアノ?
『……薄紅色の可愛い君のね……』
…?
む?
えっ?
一青窈さんのハナミズキ??
皮ジャン、
鎖、
逆立つ金髪、
iPOD。
暖かな静寂は
次の駅まで続いた。
—-今朝体験のノンフィクションな物語