マーケティングと地方遊園地

Category: マーケティングとは何か

先日、ある新聞記者の方からコメントを求められたのでそのお話を書きたいと思います。

お題としていただいたテーマはこのようなものです。
「地方の遊園地が苦戦している現在、今必要なものは何でしょうか。東京ディズニーランドのような大型施設とは一線を画した集客、戦略はどうあるべきでしょうか。」

それに対して、このような回答をしました。
・・・・・・・・・・・
遊園地・テーマパークは世相などを反映して、変化をし続けているのです。

●80年代  一方通行のバーチャル体験(アトラクションに乗ること、行くことが楽しい)東京ディズニーランド、総合保養地域整備法(リゾート法)によるテーマパークブーム
●90年代  双方向のバーチャル体験(アトラクションにゲーム性などが加わる)ナムコ、セガなどのテーマパーク事業参入、遊園地の3D施設やシミュレーター導入
●2000年代 二極化~1:今までの流れを継いだもの バーチャル体験の追及(アトラクションの巨大化) 世界一のジェットコースターや日本一の観覧車などを目指した対決、世界一のお化け屋敷など、USJ
●2000年代 二極化~2:新たな流れの誕生  一方通行のリアルな体験(遊具よりも鑑賞や癒しをテーマ)東京ディズニーシー、ジブリ美術館、旭山動物園ブーム
●現在   双方向のリアルな体験 (アトラクションに囚われない「体験」の提供)キッザニアの職業体験、八景島シーパラダイスのイルカと泳ぐ体験、むさしの村での農業体験など

そして、現在はただアトラクションに乗るのではなく、自分で参加し思い出を持ち帰るのが主流となってきています。
お歳暮や新年の福袋でも「体験」をテーマにしたものが販売されるぐらいですので、遊園地・テーマパークだけでなく日本人の心としてそういう傾向になってきているのではないでしょうか。

東京ディズニーリゾートですら「ディズニー・ハロウィン」の規模が年々拡大し、推理イベントが企画されるなど「参加すること」に価値が増していっています。ましてや各遊園地であれば、そこでしかお客様が体験できないことは何なのか、自パークのポジショニンングを見つめなおす時期なのです。

運営母体の特性を強みにしたり、土地の利を活かしたり、ここでしか提供できない楽しさ、価値とは何なのか(ポジショニング)、それはどういうお客様が体験したいと思っていることなのか(ターゲティング)を見つめなおすのが良いでしょう。

今までの遊園地は装置産業です。ジェットコースターを作ったら億単位の投資コストがかかります。そして怖いジェットコースターが1つ出来れば人を呼ぶことはできます。しかし、リピートしていただくのは難しく、もっとすごいアトラクションに投資を繰り返していく必要があり、それがゆえ遊園地は「装置産業」と思っています。大量に人を乗せ、大量に楽しんでいただくような「大量消費の体験」であれば装置産業は成立するでしょう。

しかし、地方の小規模遊園地は大量消費を生み出す必要性はありません。その反対のむしろ手作り、オーダーメードの体験が良いのです。今求められているものも、アトラクションに囚われない「体験」の提供であり、まさに時代の流れとも合致しています。地方遊園地は「装置」ではなく、価値を創る「創値」に力をそそぎ、お客様一人一人の来園する価値を創るべきです。
装置産業から「創値産業」へ変化すること、そのパークでしかできない体験を見出して提供できることこそポイントとなることでしょう。
人々の好奇心は無限にあるのですから、無限のチャンスがそこにあるのです。

・・・・・・・・・・・

この話は、空からの視点の話をしていることにお気づきでしょう。ゲストとの位置関係を再確認して、自分の位置を明確にしようということなのです。

例えば本の世界でも同じことが言えます。Amazonがディズニーランドとすれば、巷の本屋さんが地方遊園地と同じ存在かもしれません。
Amazonがあるおかげで本が売れないのでしょうか。もちろんその影響はあるでしょう。
しかし、あらためて本屋さんを空から見たときに、現代の人に近い場所にいるのでしょうか。昔近かったからその場所に居続けているうちに、人の流れが変わっていたなんてことはないのでしょうか。欲しい物を検索するのはネットには敵いません。一方、偶然の出会いはアルゴリズムによるリコメンドよりも本屋さんの文脈棚のほうが勝っていることがあるかもしれません。

テーマが集まっている「Only」の本屋さんとか、カフェが併設されている「Most Emotional」な本屋さんは集客が増えているところもあります。自分の「MOAI」が何なのか熟考する、それがゲストに近くなるきっかけとなるのです。

空から自分のアイデアを定期的に見つめなおしてみましょう。
一度近いことが確認できたとしても、時流や心情によってゲストは移動するもの。
ずっと近いとは限らないのです。